ダイジェスト版(YouTube)


 
photo/Osamu Awane
 

 
アンケートより
 
「始まり方は素敵でした。舞台の下手に音もなく白い服を着た男性が現れて、存在を消してただ立っていて、そしてまるで人間の揺れを封じ込める感じで動きのないまま身を回転させ舞台の袖に隠れてしまう。あまりに静かすぎて、幻を見たのかと思ってしまいました。それからあのスプーンが皿に落ちる小さな音だけが連続する食事の場面に…繰り返されるスプーンの上げ下げが規則正しく無機質に続き、まるで永遠を感じさせる長い時間。苦痛というより退屈に近いかもしれない深い孤独。そしていきなりの轟音。衝撃。激しい苦痛。詩が舞台にセンスよく映し出されて…それらが全て、その後に続く、詩のような台詞へと自然に移行して…」
 
ここまでは、あの夜、アンケート用紙に手で書いていた文章です。アンケートを続けて書こうとしたのですが、あの場から早く姿を消したかったので、そこまでしか書けず…また欄も一杯になってしまって…で、受付に置くことをやめ、持ち帰ってきてしまいました。役者さんたちの寸分の隙もない自然な佇まい方には驚いてしまいました。ほぼ完璧な気がしましたけど…「能」の知識はないのですが、所作に昔何度か観た「能」の舞台に通じるものを強く感じていました。台詞は部分的に重すぎたり、作り手の苦しさと被りすぎた印象を持たされたり…「しんどい」場面もあり、それが私の個人的な感情の所為なのかもしれないと思うと、いたたまれなくなったりしたのですが…そんな私情をものともしない役者さんたちの「客観」が感じられ、静かで…なので、安心してまた芝居に戻ることができたりしていました。全体としては、やはりとても研ぎ澄まされている印象を持ちました。舞台が美しい。なんて、素人の癖に生意気な感想ですね。ごめんなさい。石原吉郎さんの晩年のうら寂しく壊されていく「こころ」について、考えさせられてしまいました。戦争が、人の中に一体何を残したのか…残された人の傷がどれほど深く、醜い形をとるものか…、
 
でも、それにも増して、心に残ったのは、その荒廃が彼の周りの人をどれほど苦しめたのかということでした。カラダ全体で求めようとするものが、「受け止められない形に壊されたもの」であったときの恐ろしさは、私には分かりすぎて…描かれていたのは、石原吉郎さんの晩年ではなく、そこに触れてしまった小柳玲子さんの恐ろしいような寂寥感の方なのかもしれない。それは、多分「戦争」「収容所」「戦後」なんていう、歴史的に特異な場面…そう語るだけで、足りてしまう、深い穴の開いた景色…の中にのみあるものではなく、私の抱えている日常の中(私の過去はなかったものとしても)に潜んでいるものなのだという気がします。いいお芝居を観させていただきました。ありがとうございます。役者さんたちとの集中した心とカラダのやり取り…想像に余りあります。お疲れがでませんように。 (50代・女性)
 
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国が破れ、人が破れ、その心の荒廃の果てしなさが、静かな、されど確かな響きで観る側に幾重にも迫ってくる力があった。戦争が残したもの、残し続けているものは、あまりに大きい。ナレーター的な言葉の響きもすばらしかった。女優陣の説得力ある台詞が心に浸みた。 (50代・男性)
 
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圧倒的な緊張感、演じる側、観ている側双方に感じるそれの中で、考えないことに挑戦する自分を激しく意識せざるを得なかった。「心を空にする」ことは到底できず、次々に浮かんでは消えていく雑念と、十分な時間的な間と視覚的効果からもたらされる錯覚とが、高い次元で一体化して感じられ、観劇とは異なって認識される体験ができた気がしている。 (30代・男性)
 
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能の動きを取り入れた、出演者の動作が実に印象的でした。舞台全体にただよっていた重苦しい空気に、抑留経験者の心の闇がよく表されていたように感じます。 (30代・男性)
 
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"タビ"の意味に観劇し、深い感動をいただきました。長い長い"セリフ"をみごとに…。すばらしいの一言です。最後の少女、たまらなく良かったです。音響効果もすばらしいものでした。いいもの見せていただきました。ありがとうございました。 (60代・女性)
 
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初めて観るタイプの舞台で、セリフ以外使われている音が少なく緊張感があり、とても引き込まれました。スクリーンに写る詩も、語るのではなく読むというのも、とても考えさせられるものでした。色々な意味で体調が万全の時に観たい公演でした。 (20代・男性)
劇団阿彌 第十二回公演
青いクレンザーの函 ―シベリアの空から…
 
7月15日(木) 19時30分
7月16日(金) 19時30分
7月17日(土) 19時30分
7月18日(日) 19時30分  
※開場は開演の30分前
 
会場:シアター・バビロンの流れのほとりにて
(東京都北区豊島 7-26-19/
マップを見る
 
前売 2,800円 / 当日 3,300円
ペア 5,000円
(要予約)
学生 1,800円
(要予約・学生証提示)
 
※シベリア抑留経験者の方は無料とさせて頂きます。
 
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東京バビロン演劇フェスタ#02
『神なき夜に…』―戦争が残したもの 参加作品
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※全席自由席になります。開演直後は演出の都合上、
入場をお待ち頂く場合がございます。
※駅から12分ほど歩きますので、時間に余裕を持ってご来場下さい。
※終演後にドリンクを用意させて頂きます。是非ご歓談下さい。
チケットのお取り扱い (前日締切)
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東京バビロン
TEL…03-3927-5482
MAIL…t.babylon@r5.dion.ne.jp
 
※『東京バビロン演劇フェスタ#02』
フェスティバル通し券 (5,000円) 6/13 発売開始

 
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カンフェティ

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CoRich チケット
台本・演出
岡村洋次郎
 
出演
吉村ひろの
森川みなみ
嶋津和子
中島理乃
首くくり栲象
岡村洋次郎
 
スタッフ
照明/河合直樹
(有限会社アンビル)
音楽・音響/落合敏行
舞台監督/川俣勝人
衣装/櫻井基順
(MEME)
舞台美術/脇谷紘・岡村洋次郎
字幕制作/宗方勝
bug-depayse
映像記録/たきしまひろよし
(PLASTIC RAINS)
スチール記録/阿波根治
(スタッフ・テス)
制作/坂本康郎
<沈黙を味わう> 阿彌・鑑賞の手引き
 
阿彌の今回の舞台は、かつてシベリア抑留体験をした、詩人石原吉郎の凄惨な晩年に焦点をあてました。
戦争がもたらす、想像を絶する人間の心の崩壊に向き合うことで、国が敗れること、人間が破れるとはどういうことか、皆さんと共に深めて、それを通して、現代人の心の闇に光をあててゆけたらと思っています。
 
演劇体験は決して議論したり、哲学することではありません。そういうことを誘発するかもしれませんが、まずは
頭をからっぽにして、虚心になって、全身の毛穴をひらくようにして、五感で感じて貰いたいと思っています。特に阿彌の舞台においては、静かな時空間の中で沈黙を味わうという姿勢が、想像力の源泉となり、舞台を共に創造するという、ほんとうの演劇体験となるはずです。
 
なお観劇後も皆様と交流の場を設け、しばし歓談できればと思っております。
皆様のご来場心よりお待ちしております。
 
阿彌一同
 
題材・石原吉郎について

1915年生まれ、1977年没。詩人。静岡県生まれ。1939年、応召。41年、関東軍のハルビン特務機関へ配属。敗戦後、ソ連の収容所に。
49年2 月、反ソ・スパイ行為の罪で、重労働25年の判決。スターリン死去後の特赦で、53年12月、帰国。54年、詩作を開始。
アウシュヴィッツのノンフィクションとして、フランクルの「夜と霧」があるが、それに匹敵するソ連の捕虜強制収容所(ラーゲリ)
体験を記した著作「望郷と海」がある。
 
劇団阿彌 GEKIDAN AMI
1994結成。能楽の身体性と同時にその厳しい即興性をも取り入れ、現代劇の解体とその再構築による前衛的舞台を実現している。その求心的舞台構築の為、観客の無意識層に揺らぎを与え、そこから立ち上がる想像力において顕現するダイナミックな原初的舞台を目指している。その前衛と伝統のせめぎ合いの舞台は、日本において最も能楽に近い舞台と定評がある。
 
岡村洋次郎
劇団阿彌,主宰、東京バビロン,企画プロデューサー。1948年生。竹内演劇研究所(故・竹内敏晴,主宰)において、<からだとことば>のレッスンを通して、舞台創造の根源に触れる。その後、故・観世栄夫(観世流能楽師)に師事という、能楽が現代演劇界と断絶している中にあって特殊な経歴の持ち主である。
 
 

2009年8月 『静かなる傾斜』
※今回の上演作品と密接に関係する『サンチョ・パンサの行方』
(小柳玲子/著 2,800円)を2,000円で限定数販売致します。
受付にお申し付け下さい。

 
■劇団阿彌
http://www.tokyobabylon.org/gekidan_ami.html
■東京バビロン
http://www.tokyobabylon.org
■岡村洋次郎 Blog 『ノート・非ノート』
http://ameblo.jp/tokyobabylon/
■吉村ひろの Blog
http://ameblo.jp/ami-actess/
 
 
 石原さんは晩年、みみずばれ程度の腹切りの痕を人に見せたりしていたそうですが、現代のリストカットにも、あるいは通ずる所があるのかもしれません。台本に引用した詩の一節に「もう生きなくてもすむような」というのがありますが、私をはじめ多くの若者にとって、さほど違和感のある言葉ではないように感じます。
 あんなにも凄惨な戦争がなぜ起きてしまったのか、説明はついていないのではないかと思いますが、最近のごく自然な実感として、「戦争は全然終わってない」と思われ、戦争を知らない世代の私達ですが、臆することなく向き合いたいと思っています。
 精神的に外傷を負った場合、向き合えるようになる為には時間が必要なように、社会的精神的外傷といえるであろう戦争体験に、今こそ向き合う時なのではないでしょうか。お立会い頂ければ、幸甚に存じます。
 
阿彌/俳優 吉村ひろの (『青いクレンザーの函』ご案内状より)